県無形民俗文化財。4月26日の荻神社の祭りに奉納される、斉庭の前の2つの大釜の湯を神に供え、祝詞の奉上後、笹で湯を振り散らす。「ゆたて」の湯がかかると魔除け疫病除、長寿になるといわれ、参詣者は湯をかけてもらう。
●荻神社の「ゆたて」について
通称「ゆたて神楽」といわれているが、この神楽は、大分県で最長、最大の川である大野川の上流、阿蘇外輪山の裾野の一角に位置する荻町の荻神社に奉納されてきたもので、以前は毎年旧暦12月26日の卯の祭に奉納されていたが、現在では4月26日の例祭に奉納されている。
大野川流域には、古くから日向高千穂の岩戸神楽の諸流が伝わっており、江戸時代に岡藩主中川公の命で「深山流」「御嶽流」「上津流」等全部で六つの流派の神楽座が構成され、現在に伝わっている。この荻神社の神楽座は、深山流神楽の系統をひくものである。
神楽は、神社の前庭に湯庭を設けることにはじまる。設置された神棚には、神酒・饌米・塩イリコ・昆布・野菜・お頭付を供え、湯立に使うテフリササ4束・カワラケ2個もいっしょに供える。神棚の前には竃を2基築き、直径60?の湯立釜をすえる。さらに釜を中心に四方に注連(しめ)を張り、四隅と釜の正面に計5本の御幣を立てる。
大太鼓・小太鼓・鉦・横笛各1名ずつ計4名で構成される囃方によるハヤシが始まると、天狗の面をつけた猿田彦命が、サキバライとして登場する。次に狩衣姿に御幣と鈴を持った手引きが庭内に入場し、荒神杖をもった「ゆたて」荒神(健磐龍命)が神殿から登場します。
ゆたて荒神の舞は、正面から始まる。釜を中心に、注連(しめ)の外を左に一周舞うと荒神杖を手引きに渡し、舞ながら湯庭にたてた御幣を次々に引き抜き、参詣者に与えていく。
もらった人は持ち帰り、「家内安全」「五穀豊饒」等のお守りとする。与え終わると、手引きから荒神杖を受け取り、神棚を背に釜の側に立ち、杖で釜の湯に「水」の字を書き、湯をかき混ぜて杖を振り上げ釜の湯をまき散らす。これが清めの舞である。
清めの舞が済み、サキバライ・手引き・ゆたて荒神の順に退場すると、白衣に注連縄(しめなわ)の帯・素手・素足の湯師2人が出てきて、釜の湯をカワラケですくい神棚に供える。
次に神棚からテフリササを取り、X字型に捧げて、神棚を背に、釜に向かって宣詞を唱える。終わるとテフリササを湯につけて、
庭中に湯をたて神に初湯を参らせん
しんきこしめせ しんきこしめせ
庭中に複釜すえて沸かす湯に
われ立ち寄れば清水ならんと
とうたいながら湯をまき散らす。湯がかかると、魔除け・疫病除け・長寿になるといって、参詣者は競ってかけてもらう。
まき終わるとテフリササを神棚に戻し、釜を頭にかぶり神棚の前に供える。神に参拝した後、再びテフリササを取り、竈にX字型に置き、その上を素足で歩き渡り神楽を終わる。
なお、荻神社神楽座は、乞われて近隣の神社の祭典で舞うことも多いが、この「ゆたて神楽」だけは舞わない。またゆたて荒神役の人は少なくとも1週間前からは不浄を避け、身を清め、ゆたてにそなえており、黒不浄の人は神楽から外すなど厳しい潔斎が行われている。
さらに、ゆたて荒神が、面を神殿の中でつけ湯庭に出てくるなど、このゆたて神楽には古い神殿の姿をうかがうことができるのではないだろうか。
大分県内には、この他に豊前系神楽である宇佐郡院内町日岳のゆたて神楽があるが、ともに、県指定の無形民俗文化財である。
ゆたて神楽について
【S41.3.22県指定文化財指定(無形民俗文化財)】
名称:ゆたて(湯立)神楽
所在地:大分県竹田市荻町大字新藤字宮園1039
所有者名称:荻神社ゆたて神楽保存会
- 住所
- 879-6103 大分県竹田市荻町新藤
- エリア
- 荻・祖母山麓エリア
- アクセス
- 豊後荻駅より車で5分
- ジャンル
- 歴史・史跡・神社