幻のムラサキ焼き ―私とじり焼き 前編―

城下町・竹田エリア

幻のムラサキ焼き ―私とじり焼き 前編―

竹田には、「紫」と縁の深い場所があります。
志土知(しとち)と呼ばれるそのエリアには、紫神社があり、
そこには、かつてこの地は「紫土知」という名だったという石碑も。
さらに、万葉集にも登場する紫草(むらさき)という植物が栽培され、
その根である「紫根(しこん)」は、特別な染料として、また生薬として珍重されています。

じり焼きのリサーチを進める中で、「志土知には、ムラサキ焼きというじり焼きがある。」
「以前、ムラサキ焼きというじり焼きが道の駅で売られていた。」という話を聴き、
それはどんなものなんだろう?!・・・と興味津々!

幻のムラサキ焼きをこの目で見て、味わうべく、志土知にお住まいで、
健やかな農産加工品を作っていらっしゃる佐藤双美さんに、教えて頂きました。

「ムラサキ焼きっていうのはね、紫蘇を刻んで混ぜて焼いたものなのよ。」と。

じり焼きに紫蘇?!おかずになるような味?!甘いの?しょっぱいの?!
と、これまでのじり焼きのイメージがガラリと変わるお答えが。

「早速、作ってみましょうか。すごく簡単なのよ。」

綺麗に整えられた台所で、手際よくムラサキ焼き作りが始まりました。

材料は、「地粉、お砂糖、卵、お水、刻んだ赤紫蘇漬け」

地粉 100g
卵1個+お水で150ccになるくらい。
お砂糖 60gくらい。(赤紫蘇の色を出すため上白糖を使用。)
赤紫蘇 適量。

赤紫蘇は、双美さんが漬けたものです。

「これを混ぜて焼くだけなの。生地を混ぜたときにこれくらいのやわらかさがいいかな。」
と、長年作り続けてきたからこそ分かる美味しく出来る生地の具合。
あっという間にベースが完成していきます。

「昔からじり焼きに紫蘇を刻んだものを入れて作っていたんだけど、ちょうど紫草の取材でいらした農山漁村の記者で、
地域づくり活動をされていた森千鶴子先生が、『ここは紫草の里だし、ムラサキ焼きと呼んだら善いんじゃない?』と
提案して下さったことから、ムラサキ焼きと呼ぶことになったのよ。」とその名の由来も教えて下さいました。

あたためたフライパンに生地を流し込み、ふたをして蒸し焼きに。

じりじり焼きます。

フライ返しで、ひっくり返して・・・

そのまま反対の面も焼いて完成です!

手で食べやすいように生地に全ての材料を混ぜ、
巻かずに、カットするスタイルのじり焼き。

竹田では「小昼(こびる)」と呼ばれる、農作業の合間の休憩にいただくオヤツとしてや、
一品を持ち寄って、地域の方達とお話をするときに、誰かが必ずこのムラサキ焼きを
作っていたのだそうです。確かに、そういう集まりの時にこの形だと、
さっと手を伸ばしやすく、食べやすく、手もお皿も汚れないのが嬉しい。
みんなで集まって何かをする、何かを考えるという、互いを支え合う地域だからこそ
生まれた双美さんの思いやりの形。

赤紫蘇漬けで、生地がほんのり紫に染まったムラサキ焼き。
焼きたてのじり焼きからは、赤紫蘇と生地の善い香りが。

「いただきます。」

「ん!」

甘い生地に、酸味のある紫蘇漬けが、味と食感のアクセントとなって美味しい!
赤紫蘇漬けの香りとこの甘じょっぱさは、あとを引く味。

卵を入れることで、表面のサクッとした食感とまろやかさが加わって、
地粉と赤紫蘇漬けを絶妙にまとめてくれています。

幻のムラサキ焼き!
こんなに簡単で、こんなに美味しいとは!!
幻にするのはもったいない。

気が付くと、お皿の半分ほど食べていました。

双美さんは、せっかくだからともう一枚、黒砂糖入りのじり焼きも作って下さいました。

地粉 100g
卵1個+お水で150ccになるくらい。
黒砂糖 60gくらい。
こちらも、全部混ぜ込むスタイル。

こちらは、クロ焼き?!茶色焼き?!

この方法だと黒砂糖がこぼれず、集まりの時はもちろんですが、
子どものオヤツにも最適!

コクのある甘さの黒砂糖じり焼き。
お茶はもちろん、コーヒーや牛乳・豆乳とも合いそうです。

さらに双美さんは、ちょうど取材に伺ったときに出来たばかりという
干し柿も出して下さいました。しかも、2種類!

立派なこちらの干し柿は、濃厚な甘さでまるで贈答品。
何か特別な加工がしているのではないかというほど、極上の逸品でした。

そして、もうひとつがこちら。

ちょっと硬めの甘柿を、天日で半日ほど干したというもの。
半生干し柿。
こちらがまた絶品!
セミドライならではのむっちりさっくりとした食感と甘さ。
天然のグミのようなスイーツ。

じり焼きとこの干し柿をお土産にと持たせて下さったのですが、
5歳の娘が、夢中で食べていました。
こういう素材そのものの甘さを引き出した干し柿は、
味覚が形成されていく子供にとって最高のおやつ。
善いと思ったものを何でも試してみるという双美さん。
そして、それを会う人に伝えていく。
そんな双美さんは、竹田で最初に農産加工所を立ち上げて、健やかな食を作り、
伝えている方。その魅力を次回、お伝えします。

記事:齊藤美絵(ツタエルヒト。フードマエストロ)
写真:竹田市観光ツーリズム協会 後藤孝介